FakePlasticTree

ひびのいろいろ

缶ビール

仕事の一通りの区切りがついたのは21時頃。こんな生活をしていたら体がもたないよなぁと呟きながら帰る。自転車で5kmほど職場から走る予定であったが、とてもそんな気力がわかず結局バスを使うことにした。夜の寒さがすっかりやる気を吹き飛ばした。今日も運動できなかった。バスを降りて最寄りの駅でスーパードライの500mlを購入する。サラミも一緒に買った。サラミをかじりながら1番線のホームでビールを流し込む。端から見たら寂しい中年男だが、この時間が一番心が休まる。1人で居酒屋に行くと金がかかるし、滞在する時間もちょっともったいない。

乗り込んだ電車は、ほどんどの客と反対方向なので空いている。端の席が6割型空いているのでかなりの空き具合だ。いつもの端の席に座った。今日の出来事を思い出しながら電車のここち良い揺れにウトウトしていたら知らぬ間に自宅近くの駅に到着した。あっという間だ。なんだか時間を少し損した気分になった。

自宅で家族はもう全員寝ている。しかし1階の電気を付けっぱなしにしてくれているのであまり寂しくはない。この家に誰かが居てくれる。それだけで心は落ち着くものだ。 家についたら2本目のビールを空けよう。そう心に決めていてので直ぐに冷蔵庫へと向かう。ビールをもってダイニングテーブルの端の席に座った時にiPhone7の着信が鳴った。iPhoneで電話を受けることなんて仕事場からの緊急の電話だけといって良いので妙な胸騒ぎがした。またか・・・と思った。

しかし予想に反して電話の主は大学時代の親友であった。そいつはかなり出来る奴だった。というか努力家だった。試験前には眠気と闘うために手の甲に鉛筆を指しながら勉強をしていた。そのため手の甲が真っ黒になっていた。2晩くらいの徹夜なんかどうってことのない奴だった。要領はよくなくて不注意だったけれど、優しくて不器用な奴だった。仕事を初めてからは数えるぐらいしか合っていないが、人生の節目では大事な話をしていたと思う。

要件は「国立大学の教授になるかもしれない」という話だった。まだ全然本決まりの話ではないが、そういうことだった。まず最初に俺に電話をしてきてくれたのが何よりも嬉しかった。同業界の中では必ずしも有利な立場にあるとは言えない大学出身者が国立大学の教授になるというのはかなりの出来事だ。思わず胸が高まった。親友の声が若干上ずっているのが分かった。そして早口であった。

これが10年前なら自分は相当悔しがっていただろう。20年前なら嫉妬で卒倒していたこもしれない。しかし今回は素直に友人の出世(するかもしれない話)を喜ぶことができた。自分がそんな気持ちになれたのがなんとも嬉しかった。この日のように電車のホームで缶ビールを俺が飲んでいる間にも、きっとあいつは歯を食いしばって論文を書いていたのだろう。凄いやつだ。

そして 俺は何をこれからするんだろう? と思うとちょっと切なくもなった。まあ、真面目にやろう。そう思いながら350mlの缶ビールを飲み干した