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ひびのいろいろ

風葬

小説を読む意義は?

実用書でなくて、文学小説を読む意義とは何だろう。文学小説は圧倒的に時間を浪費する。他の趣味に比較して時間対効果は圧倒的に低い。小説を読むよりも、同じストーリーを映画やアニメ、漫画ですましたほうがよっぽど時間を節約できる。しかし同じ物語であれば、できれば僕は小説を読みたい。そう思う。そして人生が忙しくて、やってられない、どうにも疲れた時にこそ読みたい。読んでその世界に浸りたい。そうやって読むことで心を癒やせる。

ちょっと疲れた時に読みたい作家は大抵決まっている。それは桜木紫乃の作品だ。 今までも何度も氏の作品は読んだ。混み合う電車の中でしんみりと涙を流してしまった作品もある。中年の男が電車の中で涙しながら本を読む姿というのはちょっと気持ち悪い。大抵において氏の作品は大号泣するタイプの作品はない。しんみりと心の中でじわじわと哀しみが染み渡る作品が多い。それがまた良い。そんな感情が自分の中にまだあったのかな、と知る感覚は何ともうれしい。そういう感覚を通り抜けると、心がリフレッシュされる。

氏の大傑作に値する作品は個人的には「ラブレス」と「星々たち」という北海道の哀しい女性を描いた作品だ。どちらも一気に読んだ。

そして今回の「風葬」だ。氏の作品にしては凡作といって良いのかもしれない。それでも充分に面白かった。やっぱり舞台は道東。北海道の不幸な人々たちが登場人物となる。内容はサスペンスドラマのような内容であった。火曜サスペンス劇場(まだあるのかな?)とかの格好の原作になりそうだ。

ストーリーはそんなに目新しいところはないが、文体がしっとりとしていてもの悲しく、道東の風景が目の前にぼんやりと浮かぶような感覚を味わえた。通勤電車の中で1-2日で読み終えることができた。帰りの「ぐたっ」といた自分の脳みそを癒やしてくれるようなそんな作品だった。