FakePlasticTree

ひびのいろいろ

モバイルボヘミアン

この書籍は以下のような思想が流れていると知っただけで信頼に値するものだと確信した。

謙虚な気持ちで、愚直に行動し続けたあとに、思い切って挑戦する。そうして手にした2つのスキルという最強の武器は、あらゆる職種・仕事にコンバート(変換)が可能で、そのあとずっと、あなたの人生を支え続けるだろう

この手の書籍は上っ面のきれい事ばかりで読者を惹き付け、行き着く先はセミナーへの勧誘。パターンが決まっている。今の職場(現状)にさっさと見切りをつけて、新しい世界へ飛びだそう! まるで、ネズミ講の勧誘文句。現代の新興宗教の一亜系といっても良いかもしれない。

たちの悪いことに読者はそれなりに勉強した気になってしまう。ブログという媒体が広がって益々その傾向は強まったように思う。

商社マン、公務員、メーカーのセールス、教師、エンジニア、事務職、アルバイトといった立場に関係なく、まず、あなたが今いる場所で学べる「普遍的な型」を徹底的に身につけることが、新しい世界に踏み出すための基礎体力となるのだ

そう、結局は人間は愚直に行動し続けるしかないのだ。それを肝に銘じなければならない。そのための心の柔軟性、しなやかさを僕は身につけたい。

スタンフォード式 最高の睡眠

この書籍は非常に売れているらしい。それも納得できる。

睡眠関連の書籍というとどうしても早起きの素晴らしさとか、規則正しく生活するようになって自分の人生がどんなに素晴らしいものになったかを 礼賛するものが多い。

それはそれで正しいのだろうが、なんともいえぬ胡散臭さ、もっと言うと宗教臭さみたいなものが付きまとう。正論を言われてもね、まぁそうなんだろうけどさー という感じだ。書いてあることはわかるけれど説得力がないというか、腑に落ちない。この書籍は面白かった。

本書の特徴として文章の体裁がすばらしいことがあげられる。グラフィカルな文章とでも言うのだろうか、とにかく読みやすくすんなりと頭に入る。太字やアンダーラインを効果的に使用している。ともするとバラバラになりそうな、落ち着かない、まとまらなくなりそうな文章構成。しかし本書は抜群にわかりやすい。

第2の特徴はとにかく知見が豊富。しかもその全てが科学的実証に裏付けられている。下記のような記述には裏付けはないのだろうけれど、思わず試してもみたくなる。

大量のアルコールは睡眠の質を下げるが、度数が強くても量が少なければその心配はない。もちろん体質もあるが、飲んですぐに眠ることで、最初の90分、しっかりと深く眠れているのだろう。 ウォッカはアルコール度数が40度。なかには90度近いものもある強い酒だ。ワインはおよそ14度、ビールは5度程度だが、このようなアルコール度数の低い酒をだらだらと長時間飲むより、一口含んで目を閉じるのは入眠にはいいと思われる。

眠れない時には睡眠薬のかわりにウォッカでも試してみるか。まあ冗談だけれど。

BlueGiant !

少年漫画は昔から数多く読んできた。友達の家で、勉強をするふりをしながら、トイレの中で、そして日曜日のいる下がりなどなど数多くの場所と時間で名作を読破してきた。ネットなど存在しなかったから他に暇を潰す時間がなかった。ファミリーコンピューターも自宅にはなかったのだ。

晴れた日であれば外で遊べたが、天気の悪い日なんかは漫画を読んだり書くぐらいしか僕には娯楽がなかった。

読んだ種類は幅広く、ドラえもんキテレツ大百科、おばけのキュー太郎から始まりドラゴンボール、タッチ、ろくでなしブルースなどなど。あげれば全くきりがない。中野ブロードウェイが自転車でいけるような距離にあり、そこで古い漫画を立ち読みしたりしていた。今より世界は立ち読みにずっと寛容だった。

そんな自堕落な生活を送っていた割に自分は根性物の漫画が好きだった。特に野球漫画。詳述すると「キャプテン」と「プレイボール」がお気に入りだった。

登場人物は特別かっこよくもないし、ドラゴンボールの悟空のような超人的な力もない。サイヤ人に変身することもない。突然ドラえもんが夢のような道具を出してくれる訳でもない。    登場人物はただひたすらに朴訥と努力を重ねる。固執傾向があるんじゃないか?と疑うほどに練習を繰り返す。そして、弱小野球チームが徐々に強くなってゆく。そんな物語が「キャプテン」と「プレイボール」だ。この物語の醍醐味は弱者が強者を追い詰めるところ。強豪野球チームの焦りを堪能するところにあった。そういった場面ではまるで水戸黄門の最後の場面を見るような爽快感があった。

同じような漫画を最近発掘。野球とは全然違って物語はJAZZの世界。無名な音楽プレイヤーが努力を重ねる物語だ。名もないプレイヤーである「大」が周囲をあっと言わせる場面がなんとも爽快で気持ちよい。それは前述した物語の面白さにも通じるものがある。

加えて「大」は愚直で気持ちの良い男。いかにも日本人が好きそうなタイプ。当然漫画は大ヒットしている。

各巻の最後に各登場人物が その当時の出来事や「大」 を振り返る展開になっている。それがなんともまた良い味を出している。

友人に激烈に薦められて購入した漫画だったが、読んで大正解だった。

【書評】ルポ 児童相談所

児童相談所に良いイメージを抱く人は少ない。

子どもの虐待のニュースが流れるときに真っ先に非難されるのは加害者である親と児童相談所の体制であることが多い。人々は分かりやすい構造を好む。そのほうが心が落ち着くからだ。

しかし児童相談所がいったいどんな業務を日々行っているのか?そして被虐待児である子どもたちがどのように過ごしているのか?を具体的に知っている人は少ない。日々のTVなどの報道では表面的な部分にとどまるし、いくら衝撃的なニュースでも時間の経過とともにあっと言う間に人々の記憶の中から流れ去ってしまう。

www.yoshitaka4729.com

たとえば最近読んだ上記の本で取り上げられた3つの事件についてその後の経過などについて知っていたり、調べたりした人は非常に少ないだろう。悲しいけれど人間なんてそんなもんだ。

本書の著者は以前児童養護施設に実際に仮職員としてボランティアで参加し、その制度の問題点と今後の解決策について書籍化した人物だ。なにより凄いのはその後実際に基金を設立して行動を起こしているところ。普段は企業人として働いているところだ。

自分自身も僅かな金額ながらこの活動に共鳴して参加をしている。

その著者が新しく書いたのがこの児童相談所に関する書籍だ。前書と同じく実際に児童相談所の一時保護所の中で寝泊まりし、現場の雰囲気を肌で感じて書籍を書いている。

その内容について、現場の人々が読めば様々な想いも沸き上がるに違いない。しかしその情熱は素晴らしい。きちんとデータを調べ、組み合わせ 実体験というフィルターを通してその後の解決策を提示している。

どこからこんなエネルギーが出るのだろう?とちょっと不思議にも感じるが読んでいて気持ちの良い、素晴らしいルポには間違いない。

【書評】世界史としての日本史

歴史はとにかく面白い。かといって本格的な歴史書を読むのは気が重い。そして時間がかかる。だから自分はどうしても新書などで表面的なものに触れることが多い。時間があれば・・・というのは単に言い訳に過ぎないのは分かっているけれどやっぱり時間がない。

www.yoshitaka4729.com

半藤氏はこの幕末史から知って以降ファンになった作家である。歴史の詳細を分かり易く、系統だてて解説してくれる。どの氏のどの作品も素晴らしい。この「幕末史」と何冊か分冊になっている「昭和史」は別格に面白い。

世界史としての日本史 (小学館新書)
半藤 一利, 出口 治明
小学館 ( 2016-08-01 )
ISBN: 9784098252800

その半藤氏とライフネット生命保険の出口氏の対談本を読んだ。ライフネット生命保険は自分自身がお世話になっている会社。その社長は歴史家といってもよいほどに歴史に造詣が深い。特に世界史についての書籍を数多く執筆している。

そんな2人の対談がつまらない訳がない。やっぱり抜群に面白かった。

本書の初めにある一文が強烈だった。

自国は特別であるという意識は実は東アジアの各国に特徴的な現象で、その底流にあるのが「中華思想」だと僕は思っています (P20)

当たり前というか、言われてみれば当然なのだけれど、日本人も含めて(そう、僕も含めて)そうなんだよなな。 日本が第二次世界大戦で敗戦した理由についても良く書かれている。理由としては第一次世界大戦を肌で実感していなかったこと、経済感覚が軍人に欠けていたことなど。

歴史とは関係ないが、終盤で出てくるこの台詞にもハッとさせられる。

今までは体力の再生産だけで良かったのが、これからは知的能力の再生産が必要になってくる。寝る間を惜しんで長時間働いていたら勉強する暇がない、バカンスがなければ勉強する暇がないのです。 (P237)

そうなんだよな。勉強しないと。頑張るだけでは駄目なんだ。そして嬉しいことに本書はオススメの歴史書を数多く紹介してくれている。値段が効果なものも多いけれど、どれも面白そうなものばかり。

【書評】鬼畜の家

「鬼畜」の家:わが子を殺す親たち
石井 光太
新潮社 ( 2016-08-18 )
ISBN: 9784103054566

「暗澹たる」とはこういうことかも知れない。事件の発覚時にはかなりマスコミを賑わせた児童虐待に関する3つの事件についてのノンフィクション。いずれの事件も被害者である子どもは死亡している。その保護者を成育歴から丁寧に取材した作品だ

事件発覚当時は大層マスコミで話題になった事件だ。自分の頭の中からはその記憶はすっかり抜けていた。マスコミも初めこそ大騒ぎ出会ったがその後の経過についてはよく知らなかった。そしてどのような生活背景でこのような事件が起こったかも知らなかった。もちろん詳細な犯人の成育歴も分からなかった。

www.yoshitaka4729.com

この種のノンフィクションはそういったことを明らかにしてくれるという意味で意義深い。石井光太氏は震災後の遺体安置所を扱ったノンフィクションで名高く(確か映画化もされた)、その文章には誠実さと説得力がある。素晴らしいノンフィクション作家だと思う。

人間が人間としている限り悲しいけれどこの種の事件はなくなることはないだろう。とするならば制度(システム)で守ってゆくしかない。それを実感した書籍だった。 全ての大人が読む価値のある書籍だと僕は思う。

自己愛の書籍

人間の自己愛というのは不思議な感情だと思う。人間特有のものと言ってもよいかもしれない。これがなければ生きることはできない。そしてこれがなければ成し遂げられないものもある。しかし自身の心に潜む悪魔のようなもので上手に飼い慣らさなければあっという間に飲み込まれてしまう。

自分の感情を扱わなければいけないこと生業としている自分にとってこれほど興味深いものはない。実際多くの臨床理論がこの感情(?)を取り扱っている。 佐藤氏が尋常ではないと考えるのはこの「自己愛」をテーマに書籍を記したことだ。自体の流れを読んでそれを言葉にする能力は素晴らしい。

内容は氏の書籍にしては衝撃的ではない。対談も少し奧が浅い。しかし人選は特筆に値する。しかも読みやすい。

【書評】自己愛人間 - FakePlasticTree

自己愛を取り扱った書籍のうちでは正直この書籍がベストだと個人的には感ずる。 もう今から何年も前に書かれた書籍だ。

時代は流れて自己愛増幅装置といっても良いSNSが登場した。本書(佐藤氏の書籍)の対談でその話題が繰り返し取り上げられてもいる。

やはり現代は自己愛の時代なのだと思う。