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ひびのいろいろ

【書評】蛇行する月

桜木紫乃氏の小説に出会ったのは「ラブレス」が始まりだった。黄色の背景に青い蝶。なんとも派手な、どぎつい表紙。書評記事などの評判があまりにも良かったので普段あまり読まないジャンルだけれどもあえて読んでみたのだった。

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結果は大正解。以降何冊か同じ著者の小説をKindleで読むことになった。そのどれもが繊細でもの悲しく情緒溢れる素晴らしい作品。年齢を経ると分かる物語、心情というものがあるとしたらこんな感じなんだろうなあと1人想いを噛みしめたものだった。

蛇行する月
桜木 紫乃
双葉社 ( 2013-10-16 )
ISBN: 9784575238358

そして久しぶり、二ヶ月ぶりぐらいに読んだ桜木氏の作品がこの「蛇行する月」だ。舞台は他の多くの作品と同じく北海道。そして登場人物は中年以降の普通の女性たち。高校時代をともに過ごした同級生とその周辺の人々。各章はその人々の視点で物語が紡がれる。時代は移り変わり、徐々に人々の人生が明かになる。

「幸せとはなんだろうか」「人が生きるとはなんだろうか」そんな素朴な問いにちょっとだけの示唆を与えてくれるような物語があるとすればこの作品だろう。

本小説の最後の一文

夜の底で輝いている色とりどりの電飾がぼやけた。 視界に図書室の窓から眺めていた夏の湿原が広がってゆく。どこまでも緑だ。 湿原を一本の黒い川が蛇行している。うねりながら岸辺の景色を海へと運んでいる。曲がりながら、ひたむきに河口へ向かう。 みんな、海へと向かう。 川は、明日へと向かって流れている

文として抜き出すと、なんてことはない文章。しかし物語を読み終えると、それが何とも味わい深くしっとりと心に染み渡ってくる。前回読んだ「星々たち」も図抜けて素晴らしかったが、本作も負けず劣らず素晴らしい小説であった。