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ひびのいろいろ

【書評】五色の舟

文学を感じる漫画というのに時々出会うことがある。最近で言えば,児童擁護施設に生きる子ども達を描いた松本大洋氏作の「Sunny」なんて漫画の枠を超えた素晴らしい文学作品であり,現在でも連載は持続している。『Sunny』は個人的な感想で言えば詩集という表現に近いのかもしれないけれど。

その間に流れる感情に圧倒される漫画Sunny - FakePlasticTree

多分この作品は後世まで一部の人々の間で語り継がれる作品となるんであろう。そして今回読んだ「五色の舟」もそんな作品になるかもしれないなあと感慨に耽っているところ。津原泰水氏の短編集『11』に収録されている作品が原作。

物語の設定からして超独特。舞台は第2次世界大戦末期の山陽地方。異形の5人衆が見世物小屋で生計を立てながら,人間の顔をした牛『くだん』を目指して広島へと移動する。こんな作品設定の公開に踏み切った出版社も凄い。

戦前の暗い雰囲気と怪しさがたっぷり詰まっていながら,なんとなく優しさと切なさが浮き上がってくるような独特の世界感。

唯一無二の存在というのはこんな作品のことを言うのだろうな,とそんな感想を漏らしたくなるようなそんな作品に仕上がっている。そして『Sunny』と同じようにコマとコマの間の間(空間)が圧倒的に濃密。この濃密さがこの作品を名作としている所以なのだろう。

純日本文学小説を読んでいるようなそんな気分にさせてくれる漫画。『第18回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門大賞』という賞を受賞しているのも頷ける。