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ひびのいろいろ

傑物

神田橋條治の精神科診察室

神田橋條治の精神科診察室

どの世界にもその世界感が抜きん出てジャンルを超え神の領域(?)までいってしまう人というのがいる。 自分が所属する業界の中では神田橋先生がその代表的な人物だろう。その世界感は医学を超えて様々な人を惹き付ける。

精神医学は医学ではなく、この方の場合にはアートなのではないかとも思えてくるほどに他の医師には追従を許さない世界だ。 もはや、自分のような小さい人物には到底理解できない領域で、数ある著作を読んでも感嘆はするのみであるというのが現実のところ。

それでも自分の臨床に役立ちその幅を広げることができないか?と考えて本書を読んだ。本書は対談形式で書かれているのでとても分かり易く、架空症例を元にして論が進むのでその点でもイメージが頭の中で膨らみやすい。

中でも愛着障害(本書では「愛着の障害」としている)についての記載はとても腑に落ちた。 それはつまり以下の一文だ。

愛着障害というのはいかなる形で提供される愛情も、本人が、素直な形で受け取ることができない点にあるんです。

この一文に出会えただけで自分のシルバーウィークは価値があった。ちょっと大げさかもしれないがでもそんな気分になれた9月下旬だった。

自殺で遺された人たちのサポートガイド―苦しみを分かち合う癒やしの方法―

自殺で遺された人たちのサポートガイド―苦しみを分かち合う癒やしの方法―

自殺で遺された人たちのサポートガイド―苦しみを分かち合う癒やしの方法―

1日で読み切った。重い話題の書籍などで途中で息つく暇もなかったというのが本音だった。身近な人が自死するというのはその辛さがとても想像できないほどに過酷な事象だろう。でも、それは稀なことでではない。日本では減少傾向にあるとはいえ、毎年1万人をゆうに超える人々が自ら命を断っている。ということはその周囲にいる関係者も数万単位で存在するということだ。

それは保護者だったり兄弟だったり、子どもだったり配偶者だったりするのだろう。本書はタイトル通り自殺で遺された人々に向けて描かれた書籍だ。

具体的な事例が膨大にわかりやすく書かれていることで、「あなたはひとりではありません」というおそらく本書で作者が一番言いたいことが嫌でも伝わってくるように思われる。そして遺された人々がどんな感情が出てもそれは不思議なことではない、ということも大きな助けになると思う。サポートグループの存在とその重要性についても、知らない人は知らないだろう。とにかく孤立しがちな人々にとって望みの1つとなるような本だと思う。こういう書籍を日本語化してくれた人々には本当に感謝したい。

第九章の「親を自殺で喪った時」は子どもの臨床を私はしているので大変ためになった。特に幼い子どもにどう伝えるか?という点から参考にすべきことが多かった。

また最終章の回復に向けての言葉も具体的かつ実践的で良い。それは以下のようなものである。

  • 何故だったかは決して分からないでしょう
  • 悲しむことと愛することは違います
  • 紙に書いてみましょう
  • 本を読むこと
  • 他者を手助けする-あなたの学びを活かすこと
  • 故人を記念するもの

巻末には推薦図書や自死遺族を支援するサポートグループの紹介もある。こういう所に優しさというか良心を感じる。とにかく自分が今の仕事をやっていく上で回避できない問題だけにこれからも勉強は続けていかなければならないなと改めて思った9月の連休であった。

【書評】歯科(口腔)メンテナンスの大切さ

口腔内ケアの重要性について、超わかりやすく実践的にかかれている。歯医者ではなく医師による書籍。歯の磨き方は結構いままで色々な書籍で読んだが、舌の口腔内の中での置き方、ガムの食べ方などは全く知らなかったので超参考になった

口の中には、100億の細菌がいると言われています。 この数は、肛門にいる細菌の数より多いそうで、歯のケアが不十分で口の衛生状態が悪い人の場合は1兆を超える

この文章を読んだだけでなんだか気持ちがぞわぞわしてしまう自分がいる。そして、いままであまり口腔内ケアに感心を持てなかった自分に狼狽える。そんな自分と同じ感覚を持つ人々にはとびきりのオススメの書籍だ。

この書籍の良いところはきちんとしてエビデンス(文献)を示した上で何故口腔内のメンテナンスが必要なのかを明示してくれている所だ。確かに食への欲望は人間の最も基本とするところだ。美味しいという感覚は何よりも人間を幸せにしてくれる。温かいものを食べて「ほっ」とする感覚は何にもまして素晴らしい。僕はそう思うのだ。そして本書は具体的なメンテナンス方法を言及してくれているところがより素晴らしい。

その中で個人的に特に参考になったのは

  • 口腔内で舌をどの位置に置くか

  • オイルプリング

  • 歯磨きの仕方

  • ガムの重要性

  • 歯科検診の重要性

といったところだろうか。歯科検診はどこで良心的にやってくれるか? といった情報があまりないので それは今後自分の課題としようと思った。

ブクログ12月

Yoshitaka"s Book Shelf - 2018年12月 (3作品)
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ブクログを初めて、良かったことの1つに 月ごとにフィードバックが返って来ることがある。どういうことかというと上記のように前月に読んだ書籍をサマリーとして送ってくれる仕組みとなっている。上記は先月に読んだ本。なんとたった3冊しか読んでいない。読んだ書籍の数が多ければ、凄いとかいうものでもないだろうが、過去の自分と比較すると圧倒的に少ないなと思う。以前は電車の中でよく本を読んでいたのだけれど、最近はNetflixに夢中になっているからなぁ。駄目な大人だ(泣)。

しかしそんな中でも良い本との出会いはあった。久々に読んだ門田氏のノンフィクションだ。門田氏のノンフィクションはとても情熱的で、魂を揺さぶるものが多い。どちらかというと歴史の影に隠れた人物の姿を描くのが非常に上手い。今回はオウム真理教 井上嘉浩が題材となっている。井上嘉浩はオウム真理教の他の幹部と違って高学歴ではない。僕が昔抱いていた印象はもっとも狂信的な信者の1人という印象だった。

そんな思い込み(マスコミに植え付けられた固定観念)をひっくり返してくれる本だった。そしてとても僕は切なくなった。

風葬

小説を読む意義は?

実用書でなくて、文学小説を読む意義とは何だろう。文学小説は圧倒的に時間を浪費する。他の趣味に比較して時間対効果は圧倒的に低い。小説を読むよりも、同じストーリーを映画やアニメ、漫画ですましたほうがよっぽど時間を節約できる。しかし同じ物語であれば、できれば僕は小説を読みたい。そう思う。そして人生が忙しくて、やってられない、どうにも疲れた時にこそ読みたい。読んでその世界に浸りたい。そうやって読むことで心を癒やせる。

ちょっと疲れた時に読みたい作家は大抵決まっている。それは桜木紫乃の作品だ。 今までも何度も氏の作品は読んだ。混み合う電車の中でしんみりと涙を流してしまった作品もある。中年の男が電車の中で涙しながら本を読む姿というのはちょっと気持ち悪い。大抵において氏の作品は大号泣するタイプの作品はない。しんみりと心の中でじわじわと哀しみが染み渡る作品が多い。それがまた良い。そんな感情が自分の中にまだあったのかな、と知る感覚は何ともうれしい。そういう感覚を通り抜けると、心がリフレッシュされる。

氏の大傑作に値する作品は個人的には「ラブレス」と「星々たち」という北海道の哀しい女性を描いた作品だ。どちらも一気に読んだ。

そして今回の「風葬」だ。氏の作品にしては凡作といって良いのかもしれない。それでも充分に面白かった。やっぱり舞台は道東。北海道の不幸な人々たちが登場人物となる。内容はサスペンスドラマのような内容であった。火曜サスペンス劇場(まだあるのかな?)とかの格好の原作になりそうだ。

ストーリーはそんなに目新しいところはないが、文体がしっとりとしていてもの悲しく、道東の風景が目の前にぼんやりと浮かぶような感覚を味わえた。通勤電車の中で1-2日で読み終えることができた。帰りの「ぐたっ」といた自分の脳みそを癒やしてくれるようなそんな作品だった。

キングダム47

そろそろ発売しているかな、と思ってリアル書店を覗いてみたらやっぱりあった「キングダム」最新刊。もう読み始めたのは随分前のことになる。 連載当初から読んでいたわけではなくて、もうブームに火がついた後からだった。ちょっとブログで検索してみたらそれは4年前であった。

www.yoshitaka4729.com

まだ4年しかたっていないのか? とも思った。しかしずっと第一巻からテンションが一定の漫画というのも珍しい。中だるみというものが一切ない。次々と魅力的な人物も登場する。

本巻は「楊端和(ようたんわ)」と「王翦(おうせん)」の活躍が見所。特におう王翦の、不気味さはひたすらカッコ良い。

【書評】メンタライゼーションでガイドする外傷的育ちの克服

メンタライゼーションは確か昔にちょっとだけ勉強したことがあった。一時期日本でもブームであったからだ。丁度十年ぐらい前だったかな。

その基本的理念は本書に書いてある。

メンタライゼーションmentalizationとは,「自己・他者の言動・行為を,心理状態(欲求・感情・信念)に基づいた意味のあるものとして理解すること」を意味し,メンタライズするmentalizeという動詞形で使われます(第3章参照)

言われてみると「ふーん、なるほどー」と言う定義なのだけれどいまいちこれがどういうことであるのか腑に落ちるまでにはその当時は至らなかった。何だか曖昧なままで終わってしまったのだ。

勉強するときに読んだ訳本が至極難しかったからかも知れない。ほとんど理解できなかった。

しかし本書はわかりやすい。日本語の平易な文章で具体例(臨床例)を交えて書いている。訳本出ないのも良い。無理矢理英語を日本語にした難解さがない。冒頭部分の例え(「ヒデヨリくん」と「ノブナガくん」の例え)がこれまた素晴らしい。

素晴らしい本というのはその後の読書の幅が広がってゆくものだけれど、本書もそうなりそう。前回の反省を生かし今度は原著にチャレンジしてみよう。とりあえずKindleで2冊ゲット。結構な金額だったので少し気合いを入れて勉強してみよう