被災地の工場で働く男達の熱い生き様を描くノンフィクション
日本製紙 石巻工場は日本トップレベルの生産を誇る製紙工場。日本製紙の基幹工場であるばかりでなく、都市対抗野球にも出場するほどの野球部がある。
三陸自動車道から石巻市内へ下り海沿いへと車を走らせると真っ先に目に入るのがこの日本製紙の工場だ。遠目でみるとまるで昭和の巨大戦艦のような佇まい。銀色に鈍く輝く姿が美しい巨大工場。
あの年の4月に僕はこの地でこの工場を始めてみた時、石巻にこんな大きな工場が存在することさえ知らなかった。そしてその時の壊滅的な状況をみて、まさか工場が完全ではないにしろ再稼働にまでこぎつけるなんて思いもしなかった。
日本製紙全体での震災被害はおよそ1000億円。その中で石巻工場の回復費用が大半を占めており、私企業では東京電力に次ぐ巨額の費用が投じられた立て直しとなった。 (P242)
遠目で表面からみただけでも、何しろちょっと考えられないような被災状況だった。
地元の人々が、「何十年も見慣れている景色の中で日本製紙の工場から煙が立ち上っていないのは初めてだ。」としみじみ語っていたのを思い出す。
そんな工場、製紙業というものに魂を捧げた男達のドキュメント。その真髄な姿は何処と無く日本の戦後混乱期の石油業者を描いた「海賊とよばれた男」を思い出す。
そして本書の何より良い所は美談だけに終わらないところ。被災地の人間の感情の裏の正直な姿が所々に出てくる点。
それでもね、ひどいものをいっぱい見ましたよ。報道では美談ばかりが言われているけど、そんなもんじゃない。人の汚いところを一杯みました。 (P212)
という言葉に良くあらわれている。
何処か出典だがよくわからないけどよくでてくる「人間そんなに素晴らしいもんじゃないけど、絶望する程にはだめなものではない」という台詞が心に染み渡る、そんな書籍であった。
via PressSync