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ひびのいろいろ

【書評】この命、義に捧ぐ

門田隆将のノンフィクションでつまらなかったものはない。古くは山口県光市母子殺害事を追った「なぜ君は絶望と闘えたのか」から、ずっとこの作者のノンフィクションは読んでいる。そして毎回確実に面白い。

この命、義に捧ぐ」は氏のノンフィクションの中でも最高に爽快なすかっとする。そもそも戦争を題材にした話なので、悲惨さはあるけれど.

本書で中心となる人物は根本博

終戦時にモンゴルに駐屯していた駐蒙軍司令官として、日本人の引き上げに全力を尽くした人物。

根本には、蒋介石に対して終戦時の恩がある。それは、4万人の邦人と35万将兵を守り、故国日本へ帰してくれたことと、カイロ会談において「天皇制については日本国民の決定に委ねるべきだ」と主張し、これを守ってくれたという2つの恩義に他ならない (P85)

その際に蒋介石に対し恩を受けることになる。(と根本中将自身が自分で解釈するのだが)

その恩を返すために、終戦後自ら台湾に乗り込み活躍する物語が本書の内容。連戦連敗続きであった国民党軍が最後に共産党軍に勝利する。それは「金門島」という場所で起こる。地図で確認するとほぼ中国大陸に近接しているような島。こんな島を良く守り切ったものだと思う。だれもがほぼ不可能に近いと思うだろう。そんな戦いの軍事顧問をしていたのが根本博中将なのだ。

そしてこの事実はあまり日本は勿論のこと台湾でさえも知られていないという。その理由は以下のような理由がある。

その最大の金門戦争の勝利が、もし「日本人の手を借りたもの」だったとしたら、どうだろうか。それが広がることは、外省人にとって歓迎すべからずることであったのは疑いない。根本博という日本人の純粋な行動を歴史の上から消し去ったのは、台湾がもつその複雑な歴史ゆえだったのかも知れない (P242)

そんな境遇も日本人好み。日本人が理想化するヒーロー像に限りなく近いのではないだろうか。一仕事終えて、日本に帰った時の行動(立ち振る舞い)もカッコ良い。報道陣が押しかける中以下のような格好で飛行機から降り立ったという。

ごま塩の頭にのせた灰色のパナマ帽、白い麻の上着、結び目がやや開き気味のよれよれのネクタイ・・・その初老の男は、肩に釣り竿を担いでいる (P210)

こんなユーモアが戦前の日本人にもっとあったら、などとつい考えてしまう。兎に角 旧日本帝国陸軍というと負のイメージしかない気がするが、本書を読んでこんな面もある組織であったのだなあと感慨にふけることができた書籍であった