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ひびのいろいろ

慟哭の海峡

慟哭の海峡
門田 隆将
KADOKAWA/角川書店 ( 2014-10-09 )
ISBN: 9784041021538

門田氏のノンフィクションを読むのは何冊目だろう。

本屋を覗き、門田氏の名前が目にとまるたびにそれを購入している。今まで読ませてもらった作品の中で外れというか、購入して後悔した作品は一冊もない。それは門田氏が対象とする人物に心底惚れ込み、尊敬する姿勢が伝わってくるからだ。だからこそ、一本の作品を作り上げるまでの取材、情報量も凄い。

本作は台湾とフィリピンの間にある「バシー海峡」での悲劇を扱った作品。バシー海峡大東亜戦争末期に多くの日本軍兵が死んだ場所。その数は10万から20万人に登るという。南方からの

主な主人公は2人。それは中島秀次と柳瀬千尋。

中島秀次はバーシー海峡で独立歩兵第十三聯隊の元通信兵として輸送船に乗船していた時に敵艦に撃墜される。その後10日以上このバシー海峡を漂流し、奇跡的に救出される。戦後になってこの海峡で死んでいった日本兵を慰霊するため台湾に潮音寺を建立する。 柳瀬千尋は有名な「あんぱんまん」の作者”やなせたかし”氏の実弟。京都帝大法学部に在学していた秀才。本人物はバーシー海峡で敵艦に撃墜され戦死する。ふたりの人物に直接の繋がりはないのだけれど、その生き様は共通するところが多い。それは自己犠牲という部分だ。

そういえば門田氏の著作にはこの自己犠牲に徹しながらも真面目に愚直に生きる人物の作品が多い。

やはり日本人として共感を得やすいのだろう。僕もその1人で。自分には決して真似できない生き方がこの人々には確かにある。

焦土と化した日本を復興させ、そして”二十世紀の奇跡”と呼ばれた高度経済成長を成し遂げたのも、彼ら大正生まれの人々である。戦争中は突撃、突撃を繰り返し、戦後は黙々と働き続けた大正生まれの人々はいわば「他人のために生きた人たち」である (P315)

そしてやはり本書の最後は上記のような言葉で締めくくられる。本作も素晴らしい作品であった