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ひびのいろいろ

【書評】21世紀の自由論―「優しいリアリズム」の時代へ

日本人というのは大局観にたって客観的に現実を評価するのが困難な国民なのではないか。特に情とかその場の雰囲気に流されやすい。理性的なようでいて(自分達でそう考えているだけかもしれないが)実はとても感情と現実判断が直結しているのだろう。

幕末から太平洋戦争までの日本史が僕が好きなのも、日本人の上記のような傾向が直接的に表現されているからなのだろう。そしてその後押しは大体国民だ。

最近の日本のリベラルと言われる人たちと日本の戦前の人々の空気感というのは何処か似ているところがあるなあとなんとなく考えていたのだけれど、本書を読んでますますその思いが強まった。

本書はその冒頭の真っ先から日本のリベラル勢力を実名を挙げて批判する。

最大の問題は、彼らが知的な人たちに見えて、実は根本の部分に政治哲学を持っていないことだ

彼らの拠って立つのは、ただ「反権力」という立ち位置のみである。

こういった批判だけではなくて、著者はその対案などのヒントもしっかりと提示してくれている。

膨大な資料を元に書いた書籍なのだろう。とにかく内容が濃い。現在の世界情勢から世界の近代史まで掘り下げながら丁寧で誠実な文章が並ぶ。新書であるのが勿体ないぐらい。

こうした中で紡ぎだされる著者の意見は説得力があり冷静で納得せざるを得ない。こういった意見がもっと普通に広まってくれば良い。しかしこういう地味な書籍は売れないだろうなぁとも思う。