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ひびのいろいろ

【書評】かんもくガール

場面緘黙症とというのは文字通りある場面において全く喋れなくなってしまうこと。子どもに多い子どもの病気。自宅では饒舌過ぎるほどにぺらぺら喋ることができるのに学校だと全く喋れなくなってしまう。

臨床の場ではわりかし多く経験する。多くは成長とともに徐々にその症状は軽快してゆく。多分一般的にはあまり知られていなくて「子どものわがまま」とか「育て方の問題」とか、そういうことで片付けられてしまうことも少なくないと思われる病気だ。

私はかんもくガール: しゃべりたいのにしゃべれない 場面緘黙症のなんかおかしな日常

私はかんもくガール: しゃべりたいのにしゃべれない 場面緘黙症のなんかおかしな日常

この「かんもくガール」はそういった場面緘黙症という病気の当事者の自伝。幼稚園の時から小学生〜中学生そして美大、就職、結婚とその人生史を真面目に振り返る物語。妙にかっこつけた自伝ではなくて「ここまで心の内面を晒して良いのかな?」と読み手が考えてしまう程に正直に誠実に書かれている。

この物語に出てくる女子でさえ,自分が場面緘黙症という病気であると気付くのにたいそうな時間がかかっている。そして一口に場面緘黙症といっても様々なタイプがある。そういった意味で中々一筋縄ではいかない疾患なのだ。

本書はエッセイ風の自叙伝漫画の後に専門家による解説が章ごとに記されている。その内容が的確かつ分かり易いのもポイント。

本書の主人公は決して順調ではない人生の道のりをそれでも一歩ずつ歩んでゆく。青年期になって抑うつ状態になったり,家族との葛藤があったりそれは様々な障壁がある。 そんな中でも主人公が社会的に不適応を起こさずやってこれたのは以下の点があったからだろう。

  • 言語以外の表現手段として絵画や音楽などの手法があったこと
  • ある程度(そうはいっても完璧ではない)教師や友だちに恵まれていたこと

特に言語以外で自分の感情を発散できたのは大きいのではないか。

選択性緘黙症の一般向けの書籍といえば今までは「なっちゃんの声ー学校で話せない子どもたちの理解のために」という書籍が主であった。

なっちゃんの声ー学校で話せない子どもたちの理解のために

なっちゃんの声ー学校で話せない子どもたちの理解のために

これはこれで十分素晴らしい本なのだった。しかしこの書籍は当事者以外の周囲の人に向けたもの。 当事者向けあるいは当事者の保護者向けと言う意味では本書は超オススメの書籍だと思う。