FakePlasticTree

ひびのいろいろ

【書評】老人喰い:高齢者を狙う詐欺の正体

自分の実家にも振り込め詐欺の電話はかかってきたことがあるし,その手法が相当高度になっていることは以前から聞いていた。そしてこの手の詐欺は時間の流れの中にもかかわらず,その勢いが衰えることはない。

本書を読んで何だかその事実が了解できたような気がする。

次章では,老人喰いは「なぜここまで大きくなってしまったのか」を描こう。その答えは先に書いておく。

彼らがとてつもなく優秀で,とてつもなくモチベーションが高くて,その現場には彼らを「そのように育て上げる」システムがあり,加えて彼らには「老人喰いに情熱を注ぐ理由」があったからだ。

「イマドキの若者は使えない」などと嘆いて,リタイア後には詐欺の被害に遭ってしまうような高齢者には,自戒をもって読んでいただきたい。 (P86)

と本書に書いてあるように,加害者である人々はとびきり優秀な人々である。決して街のチンピラたちが思いつきでやるような犯罪でない(自分は本書を読むまでそう考えていた)。特にこの種の犯罪組織の社員育成の方法は思わず溜息が出てしまう程に洗練かつ合理的にできている。

そしてそのような社員となるのは社会的弱者である最貧困層の若者たち。上昇志向と根性がすわっていて頭も切れるが成育歴や運命に見放され弱者となってしまった若者達。時代が少し違えば,本書に書いてあるように

彼らはおそらく,戦後の高度成長期に日本の「モーレツ会社員」の中に入っていれば、とてつもない成績を収めたはずの人材だったと思う。 (P191)

となっていたのだろう。こういった若者達を能力を生かせるような場所で上手く働かせることができないのが今の日本のひとつの問題なのかもしれない。

ここまで本書を描くのに相当の取材を要したに違いない。新書でこの値段でこの本が買えるのは素晴らしい。作者は「最貧困女子」の鈴木大介氏。

氏のノンフィクションはおしなべて面白い。テーマというか哲学も一貫している。 お勧めのノンフィクションです。