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ひびのいろいろ

【書評】かあちゃん

重松清は男の哀しさを描くことが非常に上手だと思う。哀しさというか人間の二面性。一見嫌なやつの裏側。よいやつの悲しみ。人々の抱えている人生を描くのが本当に上手い。あるていど話の展開が読めても思わず涙があふれ出てきてしまう。そんな物語が多い。

今回読んだ『かあちゃん』という小説。舞台は中学校。虐めが原因で自宅でリストカットをした男子中学生。その子をとりまく様々な人々。それは担任の教師だったり,親友だったり,虐めの張本人だったり,クラスの女子生徒だったりする。その人々それぞれの視点から短編小説のように話がまとめられる。

小説のタイトルは『かあちゃん』という題名で確かにそれぞれの登場人物の母親に対しての想いや情景を扱った物語。しかしこの小説の真のテーマは後書きにも述べられている通り『『ゆるす/ゆるされない』(言葉をかえれば「ゆるさない/ゆるされない)関係を描いた』もの。

「謝ることと償うことって,違うよね。『謝る』は相手にゆるしてもらえないと意味がないけど,『償う』は,たとえ相手にゆるしてもらえなくなるかも・・・っていうか,ゆるしてもらえないことがだら,ずって償っていかなきゃいけないと思うの」( p.446 )

という小説の中の台詞にそれは現れている。

『とんび』や『きよしこ』ほどの名作にはならないだろうけど,それでも流石 重松清という話の展開。最後は少しだけ優しい気分になれる。自分の家族(子どもにも)薦めたくなるような小説だった。