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ひびのいろいろ

【書評】通訳日誌

当たり前だけどスポーツは誰の目にも明らかなほどに結果がはっきりとわかる。なので結果が上手くでなかった時の評価は当然のごとく厳しいものになる。そして上手く行かなかった時の立ち振る舞いこそ、その人物の真価が問われるもの。そういう意味でザッケローニ氏の闘い方は尊敬に値するし気持ちが良かった。

矢野 大輔 オフィシャルウェブサイト | Daisuke Yano

矢野大輔氏は前サッカー日本代表のザッケローニ氏の通訳を務めた人物。15歳で単身イタリアに渡りプロサッカー選手を目指した人物だ。過去に大黒将志選手の通訳もしたことがあるらしい。まだ30歳前半と非常に若い。その矢野氏がザッケローニ氏と過ごした4年間を日記で振り返ったのがこの本「通訳日誌」。捻りもなにもないような書籍名だけど、非常に内容は面白く、コロコロコミックのような厚さながらあっという間に読むことができる。

最後は残念な結果になってしまった日本代表でありながら、監督と日本代表選手との関係性や熱い想いに心が打たれる。すべての試合が終了した後の監督の言葉は涙なくしては読めない程。ザッケローニ氏という人物はチームの状態が悪い時にも決して選手を個人的に責めたりはしない。これは簡単なようでいて実は非常に難しいこと。

同じような人物に中日ドラゴンズGM落合博満氏がいる。

監督時代に落合氏は絶対に選手個人のことを責めなかった。試合に負けた時にはすべて「自分の責任」という発言をしていたように思う。優れた指導者とはこういうものなんだろう。

大輔、こんなもんだ。負けている時、周りは”全てが悪い”と思い込んでしまう。しかし,監督はそういった風潮に流されてはいけない (P289)

そして負けている、劣勢な時に その時点で”変えなくてはいけない部分”と”変えなくても良い部分”が必ず存在する。それはスポーツに限ったことではないだろう。この判別が本当に本当に難しい。それは長い間時間が経ってみないと分からないことかもしれない。

人間にはRiferimento(拠り所)がなければならない(p.400)

腹を据えた判断をするためにも「拠り所」が必要なのだろうし、自信の理論的根拠をしっかりと確立する必要も大事なのだろうな。総じてサッカーだけではなく、全ての分野にも通じるような言葉がちりばめられた良書であったように思う。