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ひびのいろいろ

【書評】沈黙の町で

沈黙の町で
奥田英朗
朝日新聞出版 ( 2013-02-07 )
ISBN: 9784022510556

中学校年代、10代の前半というのは誰にとっても非常に危うい世代だ。肉体的にも精神的にももっとも衝動性が高まる時期だろうし、おそらく本人がそのことにまったく気付いていない。周囲からの同調圧力も強いし、何よりも逃げ場がない。自分のこれまでの人生の中で二度と戻りたくな時代があるとすれば、おそらくこの年代であろう。

本書はある日突然学校内で中学校2年生の男児が死亡している所から話の展開が開始される。そしてその児童の特徴は以下のような子どもで名前を名倉という。

中学生になって、世の中にはいろんな人間がいることがわかってきた。明るい子、暗い子、目立つ子、おとなしい子、やさしい子、意地悪な子。十人十色とはよく言ったものだ。だから人間関係を大切にするようになった。裏返せば、嫌われるのが怖いから、言いたいことをのみ込むようになった。たまにそういう空気を読めない子がいて、周りをイラつかせる。名倉はその典型だ。

名倉とは上記のような子ども。しかも昔から続く呉服問屋の一人息子で金持ち。学校にはブランド物の服で投稿し、運動も勉強もさっぱり。場の読めない発言をしては、皆の反感を買いしかもそれに本人は気付かない。周囲がその事を指摘しても、本人は逆ギレするか、相手が女児の場合には反対に暴力を振るったりもする。まあそんな奴だ。自分の子どもの頃を思い返してみてもまあ、そんな子どもはクラスに一人ぐらいいた。

小学生までは、人格を取り沙汰されることはほとんどなかった。意地悪な子も、乱暴な子も、うそをつく子もいたが、卑怯な子はいなかった。それはまだ無垢だったこともあるが、上に大人がいて責任が問われなかったからだ。 中学生になって、自分たちの世間を持ち同時に信用が必要になった。

そして中学生になると上記の様相も相まってそういう子どもは得てして虐められてしまう。本書でもやっぱりそういう展開になっていく。本書で描かれる虐めからこの子どもの死に至るまでの展開は、全国どんな学校であっても起こり得ることであろう。

本書の特徴は、子どもが死去した後の被害者と加害者の保護者の心情の変化が生々しく描かれている点だ。保護者特に、母親というものはこうも自分の子どものことだけしか考えられないのか、という点において暗澹たる気持ちになってゆく。本書の最後まで救いようのない、やりきれない思いが続くことは変わりはないのであるが、それが現実というものなんだろう。