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ひびのいろいろ

【書評】〈正常〉を救え 精神医学を混乱させるDSM-5への警告

著者はDSM-Ⅳの編集委員長であるアレン・フランセス。DSMもしっかり有名になって一般の人々にも知れ渡るようになった。ようは精神障害の診断と統計の手引き(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)のこと。

その編集員長であったアレン・フレンセスは以下のように嘆いている。

DSM-Ⅳに過剰診断に対する警告とそれを避けるための助言をはっきりと記すべきであった (P132)

確かに精神科へ通院し診断を受け、投薬を受けている人はアメリカだけでなく日本でも増え続けている。アメリカではなんと

小児の双極性障害は、信じがたいことに40倍に増えた。自閉症はなんと20倍に増えた。注意欠如多動性障害は3倍になった。成人の双極性障害は倍増した。 (P175)

であるという。アメリカほどではないけれど日本も上記の疾患の診断数が増えていることに変わりはない。

なぜ過剰診断がいけないのか?

それは人間はもちろん自然に立ち直る力をある程度はもっており、それが可能な人々に診断をつけ薬剤を投与していくことは当然のことながら百害あって一利なしだからだ。

なにしろ

現在はアメリカ人の7パーセントが合法的な向精神薬に依存している (P163)

とうのがアメリカの現状らしい。ちょっと怖くなる数字だ。

第1章:傷だらけの正常

  • 何が正常で何が正常でないのか
  • 呪術師から精神科医へ
  • 診断のインフレ

第2章:健康をむしばむ精神科の流行

  • 過去の流行
  • 現在の流行
  • 未来の流行

第3章:正常への回帰

  • 診断のインフレを抑制する
  • 賢い消費者
  • 精神医学の最悪と最良

本章は現在の精神医学が抱える問題点について以上のような構成で描かれている。一章は精神医学の歴史。特にシャーマンと精神医学との共通点やコーランが精神病治療に対して先進的な考えをもっていたことなど、自分にとっては新鮮なことばからりで非常に面白い内容だった。

しかし第二章からが本書籍の本領発揮というところ。製薬会社がどうやってDSMを利用し、マスコミと連動し、一般の人々に宣伝を行い医師に薬剤を処方させるかを詳しく述べている。そしてその流れにのって過去から現在までどのように精神科の診断が作り上げられてきたかが記されている。

最終的に処方を行い、診断を下すのは医師なのだからここに大きく医師の責任が存在するのはいうまでもないだろう。そしてよほどの覚悟と責任をもって医師が診断/治療を考えてゆかないといけないだろう。つくづく精神科医というのは因果な商売ですな。

第三章においては、これからの精神医学の進むべき道について記されている。日々自分達が切磋琢磨していかないといけないですな。頑張ろう。

最後に本書は和訳も非常にこなれていて読みやすい。400ページを超える書籍ながら一気に読めてしまった。専門ではない人にもすんなりと読める本であると思うのでお勧めです。