【書評】第十六代 徳川家達
徳川家達とは慶喜の跡を継ぎ徳川宗家 当主となった男である。跡を継いだのが若干4歳の時。
十代の時にはイギリスへ留学もしている。こういう地位の人物を明治初期に海外へ留学させるというのも凄いことだ。何しろあの江戸幕府直系の当主である。そういう感覚は素晴らしいが中々出来るもんじゃあない。
そんな家達の人物像を描いたのが本書である。
勝海舟の存在が面白い
勝海舟からの人物評、そして家達に対してのアドバイスも興味深い。
大名らしく(?)男色家の傾向もあって華族会館の給仕を度重なって鶏姦するという事件もあったという。
勝海舟の家達の人物評は
三位様 (徳川家達)は、元来人に可愛がられるたちで、学問も相応にあり、しごく正直で、勉強家だからお上にも始終お目をかけてくださるよ。このごろはあんなに日増しに肥満せられるから、おれは十分にご運動なさいとお勧めしたが、そのとおり昨今は絶えず運動しておられるそうだ(『氷川清話』) (p.174)
そして
徳川家の当主たる者、つまらない公職にいそいそと就くようなことはせず、いざ国家の一大事というようなときにこそ命を投げ出すような役割を果たすべきだというのが、海舟から家達へのアドバイスであった ( p.67 )
とアドバイスしたという。その後の家達のこうどを見ると、そのことを忠実に守ったといえるのではないか。
十五代将軍 慶喜 との関係も本書では取り上げられている。どちらかというとじぶの趣味に没頭する慶喜と公務をこなす家達、2人の微妙な関係などなど。
言葉は悪いが明治政権以降の政府は前権力者を上手く利用する術に長けていたのだろう。そうした良い意味での大らかさが日本にはあるということだ。集団帰属意識が非常に強く窮屈な所もありながら、こういういがいなところもあるのが日本の良さだろう。
そして家達自身も自分の本分をわきまえ、自らの仕事を全うし日本外交を裏から支えた。外交だけでなく貴族院議長を長年にわたって務めたり、幻の東京オリンピックの承知委員長になったり晩年まで様々な分野で活躍している。しかし政治の本当の表舞台には最後まで登場しなかった。
以上のような内容だけでなく、徳川家が明治維新後どのような生活をしていったか、などについても述べられていて非常に面白い書籍であった。