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ひびのいろいろ

【書評】どうして涙がでるの?

近所の本屋に平積みになっていた本。レトロな本の表紙の絵がどうにも気になって手にとってしまいそのままレジへと向かってしまった。

この本は再販であり、初回に本が出されたのはおよそ50年前、1960年代だ。その時代に生きた心臓病を患った女性とその兄のノンフィクション。

 

その兄とはなんと雑誌「薔薇族」の初代編集長である伊藤文学氏。薔薇族といえばその筋では超有名な雑誌。まあそんなことどうでもいいか。

 

『ぼくどうして涙がでるの』が45年ぶりにまた新書版になる!: 伊藤文学のひとりごと

 

兄の振り返りと、心臓病を患った女性、紀子さんの日記で物語は進んでゆく。1960年代といえば、まだまだ戦後直後といっても良いような時代。心臓疾患などはまだ不治の病されていた時代。今では考えられないような設備で治療をおこなっていた。

 

わが国における心臓大血管外科発展の歴史と顕彰

 

なので外科手術はそれこそ患者にとってそのまま死を意識するような存在だった。5歳の男の子が麻酔をかけられ意識が遠のくなかで父親に抱きかかえられながら話す以下のような台詞は涙なしではとても読むことができない。

 

お父さんがベッドから和ちゃんを抱き上げて、手押し車にのせようとしたが、しっかりお父さんの腕をつかんでなかなかはなれなかった。みんなが、車にかけよって、かぶさるように和ちゃんの顔に目をそそぐ。「ぼく、どうして、涙がでるの、おしえてよ、かんごふさん」(130)

 

こんな哀しい物語がいくつもあって、そして医師やその関係者達の血のにじむような努力があって今の循環器外科の発展があるんだろう。僕が働く世界とは随分と隔たりがある世界だけど、でも僕自身今できることを精一杯やらなきゃな。とかそんなことを真面目に考えさせてくれるような本であった。

 

本屋にたまに行くとこんな本に出会えるからよいな。やっぱりAmazonだけだと色々見逃しちゃう。

 

そしてこの作品は映画にもなっていてその当時もかなり話題となったらしい。

 

ぼくどうして涙がでるの : 作品情報 - 映画.com