FakePlasticTree

ひびのいろいろ

冬のバスの中で出会った人

深夜22時近くの路線バスの車内。日曜日なので乗車客はほとんどいない。閑散とした車内。まだ冬の寒さは辛い。バスが停留所に止まり扉が開くたびに刺すような痛い空気がズボンを通して足に突き刺さる。1番前の席に座りうとうとしていると通路を挟んで左の方からブツブツと呟く声がした。「怪しい人かな」と寝ぼけまなこで隣を見ると、ボロボロの単語帳を片手に持った青年が目にとまる。単語帳は赤いチェックペンでほぼ全ての箇所にマーカーされている。

#RICOHGR#blackandwhite

姿格好はみずほらしく時代遅れ。丈がどう見たって足りない薄汚れたベージユのズボンに、萎びたダウンジャケット。前髪は不揃いに伸びていて小学校時代からあまり変化のなさそうな髪型。単語帳をもつ反対の手で神経質そうに前髪を弄っている。その姿を見るとしみじみ2月だなあ,受験の季節なんだなとしんみりとなる。

恐らくかなりの確率で勉強の要領は良くないんだろうな.90%の確率で浪人生。そして50%以上の確率で多浪だ。なぜそういうことが分かるかというと自分も正にそんな感じだったから。うだつの上がらない10代後半の時代だった。

努力しても全く結果が出ないことは人生でそんな珍しくない。受験というのは努力が結果が出やすい種類の場ではある。でも中々結果が出ないこともある。自分の経験に照らし合わせると結果が出なくてもがき苦しんだ体験は役に立った。失敗ばっかりだった自分の受験生活も今になって振り返ればそれなりの意味はあったと今更ながら感じる。

「適当な努力で妥協せず,もがき苦しみながらやったことは結果はどうあれきっと役に立つよ」 

バスの中で出会った自分とよく似たその受験生に心の中で話しかけてバスを降りた