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ひびのいろいろ

【書評】ゼロ

今までの著者の本の中で抜群に良い。

その本の名前は「ゼロ」。実にシンプルな名前だ。近所でも大きなスペースにこの本が平積みにされて大量におかれている。それだけ多くの人の共感を呼んでいるのだろう。

氏は僕と同世代、もっと言うと同い年だ。生まれた月からしてほとんど同じ。たった数ヶ月の違い。なので著者が生きてきた時代の空気感など何となく共有できる。

近鉄バッファローズの球団買収騒動があった頃から、何となく気になる存在になっていった。今までのこういうタイプの若い経営者は何故か自分は好きになれなかった。我が強くていけいけで自信満々で。一緒にいたとしても目も合わせないだろう。しかし堀江貴文という人物はなにか惹かれるところがあった。

「時代を変えてくれるかもしれない」とか、そんな期待もあったのかもしれない。しかしそれだけではない人間的な魅力がある人だなあ、と実際に会ったこともないのに考えていた。

そもそも逮捕、収監されてもこれだけ支持される人物はめったにいるもんでもない。その事実だけで、類い希な人を惹き付ける才があることが分かる。

本書は氏の自叙伝的な内容でもある。幼少期の記憶から会社を興すまでの反省が書籍の前半で感傷的にしっとりと描かれている。

以前に氏が重松清の「とんび」を嗚咽しながら読んだということを知った時に随分と意外に思ったものだ。そもそも「小説なんてばからしくて時間の無駄」とか如何にも言いそうな感じがしていたからだ。

しかし著書の前半部分を読み、それが理解できた気がする。人生の孤独、寂しさを随分と抱えた人だったのだ。それを正直に切々と書いているところも凄い。

これまでの人生で、「ひとりになりたい」と思ったことがないのだ。

こんな一文が切なく心の中に入ってくる。僕が感じた人間的な魅力はこんな人生の前半部分から来ているのかもしれない。つくづく真っ直ぐで要領が悪い人なんだと思う。でも同世代として僕は応援し続けたい。

ゼロ
堀江 貴文
ダイヤモンド社 ( 2013-10-31 )