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ひびのいろいろ

【書評】賊軍の昭和史

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幕末関連の書籍を読むと次々と読みたくなってしまう。それだけ興味(知識欲)を刺激されることが多いのだろう。とりわけ上記の本は新鮮だった。自分の中の薩長土肥のイメージを少し変えることができた書籍だ。物事は何にだって良い面と悪い面がある。政治というこの世で最も俗物的なものなら尚更だろう。だからこそ現在でも政局はあんなにも面白く、日々週刊誌やワイドショーの話題になっているのだろう。

賊軍の昭和史
半藤 一利, 保阪 正康
東洋経済新報社 ( 2015-08-06 )
ISBN: 9784492061961

勢いのまま読んだ対談集。僕にとって半藤一利氏と言えば『幕末史』そして何よりも勝海舟の贔屓作家。保坂氏の著作は恥ずかしながらまだ読んだことはない。 この書籍の冒頭に以下のようなコメントが出てくる。

日本の近代史とは、黒船来航で一挙にこの高揚された民族主義が顕在化し、そして松陰の門下生とその思想の流れを汲むものたちによってつくられた国家が、松陰の教えを忠実に実現せんとアジアの諸国へ怒涛の進撃をし、それが仇となってかえって国を亡ぼしてしまった、しかもそれはたった九〇年間のものであった、そう考えている。つまりそれが〝官軍・賊軍史観〟というわたくしの仮説なのである。

太平洋戦争といえば、最近の感覚だと海軍善玉論という最近の流れ。それはつい最近上映された『山本五十六』の映画にも投影されていた。

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この映画は傑作だと今でも思っている。しかし本書でまた山本五十六の違った面を認識できた。それだけでなく、単に賊軍善玉論では終わっていない。歴史のそんなに単純ではない複雑な面白さが本書の中にはある。 そして僕はやっぱり太平洋戦争までの昭和史が好きだ。その歴史の中に日本人の本質が多く内包されているように思う。とかく日本の近代史の中では特殊な時代として扱われがちな時代。しかしこの時期にこそ大事なことが多く詰まっているように僕は考えている。

そしてこんな言葉にもはっとさせられる

軍人は、医者と同じ精神構造を持っていると、僕は考えたことがあります。  医者は、一八歳で医学部へ行って、世間のほかのことは何も知らずに、医者になるわけです。もし大学入試も医師の国家試験も順調に通ったとすれば、最も早ければ二四歳で医者の資格を得る。二五歳で治療をやろうと思えばやれるわけです。 ところが、医学部に入るには必死に受験勉強をしなければならないし、最短で医者になるには医学の勉強ばかりすることになる。すると、医学のほかは何も知らないまま医者になってしまう。だから、医者のなかには、人間的に歪な人が、ままいるんですね。

充分に自分自身肝に銘じなければいけないことだ。歴史を繰り返してはならない。