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ひびのいろいろ

【書評】ヒキコモリ漂流記

著者はたぶん40歳代前半。名前は山田ルイ13世。「髭男爵」という一世を風靡したコンビの1人。シルクハットをかぶり、ワイングラスを傾ける大柄な男。世間的には所謂一発屋として知られているのかもしれない。

僕と同世代のそんな山田氏の自分の半生を綴るのが本書。

ヒキコモリ漂流記
山田ルイ53世
マガジンハウス ( 2015-08-31 )
ISBN: 9784838727742

壮絶すぎる著者の人生

「うんこ漏らし事件」を発端とする中学からの引きこもり、離島での生活。父親の浮気と家庭崩壊。父の愛人との衝撃の出会い。そして肉じゃが事件。大検を受けての地方国立大学への入学。そこから芸人を目指し上京。ホームレス生活。波瀾万丈な人生というには言葉が陳腐に思えるほど。

ひきこもった後の心性を当事者の視点から切々と描く文章は自己愛的ではあるけれど、ユーモアがちりばめてあるせいもあってすんなり楽しく読める。思春期のひきこもり者の心性を簡便に手っ取り早く知りたかったら本書を読めばよいのではないか。

本書の序盤に描かれる少年期(小学校高学年から中学性)の勉強前の儀式行為。当初はこれで集中力が高められてゆくものの時が経つにつれてそうはいかなくなってゆく。

極めつけは、「定規で字を書く」である。

であったり

中学に入る少し前から、つまり、中学受験に臨んでいる最中から、僕はある種の儀式めいた「段取り」にこだわるようになっていた。

ということであったりする。

そして儀式行為に圧迫されていく様、その床状に苦しみながら日常生活を圧迫されてゆく様子は強迫性障害の悲哀、哀しみを切に感じる。

著者のような天才と言われるような子どもの中には一定数こういった子ども達が確かにいるというのが僕の実感だ。イチローの様になれる若者はほんの一握りで後は著者のように心底苦しみ自己嫌悪の中で喘いでいるのだろう。

避けられない運命があるのではないか?

そして「ひきこもり」となってしまうにはどうにもならない運命(さだめ)のようなものがやっぱりあるのではないか?

それは

  1. 「ひきこもり」となりやすいような体質(性格傾向)
  2. 事故とも考えられるような偶然の重なりがあり 不登校⇒ひきこもり となること 
  3. その後の悪循環 (これも運命とも言えるような事故が重なることが多い)

といったことだ。この内自分の努力で改善してゆけるのはかろうじて3の部分だろう。そして著者はひたむきに自分に向き合いながら、そして自分のナルシスティックな部分に正面から向き合いながら生きながらえてきた。それ故に大きな感動を呼ぶ

「人生が余った」などと思って生活している人間と、その人なりの能力の中で、一個一個、大事に積み重ねてきた人間とではまったく違う。

と常に考えていた人間が、最後には自分の人生に時間が足りないと考えるようになった。それだけで素晴らしいではないか。