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ひびのいろいろ

【書評】スラップスティック

青野春秋氏といえば自分の中ではここ数年来で衝撃を受けた漫画家の1人だ。その代表作といえば何といっても「まだ俺は本気だしてないだけ」。映画化もされた本作。同じ40代のしがない中年男性として、胸に突き刺さる部分が多い情緒的な作品であった。酷くシンプルな絵柄ながら、胸に突き刺さる部分の多い作品だった。時折短い言葉で表現される台詞が何とも味わい深い作品とはこのことだろう。

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五反田物語という短編集もお気に入りだった。特に目的もなく東京へやってきた若者とソープランドで働く女性の物語。どこか切なくて、情緒的な作品。特に大きな展開はないのだけれどしっとりとした気持ちになることができるそんな作品であった。この五反田物語の巻末に著者の対談記事が掲載されている。うつ病に罹患していたこと、結婚をしているが友だちとの奇妙な3人暮らしをしていることなどが語られている。きっと色々な人生経験をしてきた作家なんだろうとインタビューの行間から読み取れる。

そんな青野氏の新作がこの「スラップスティック」。兄と母との3人暮らしをする小学生の物語。兄は滅法喧嘩が強い。しかもこの小学生は兄から執拗な暴力を受けている。巻末には著者の幼少期のものと思われる写真? 母親と本人は血が繋がっていない。

こんな文面だと酷い物語だなと感じるかもしれないけれど、青野氏の画力と、台詞のうまさにより何とも味わい深い作品になっている。青年期のシズオ(「まだ俺は本気だしてないだけ」の主人公)も登場人物として出演し、良い味を出している。

なんとなく自虐の詩にも通じることのあるこの作品。すでに第2巻も出ていて長編になりそうな予感。これからの展開が楽しみ