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ひびのいろいろ

【書評】自殺するのは芸人として面白くない(書籍:統合失調症がやってきた)

内容はともかくとして生理的に大好きな本というものが僕には存在する。それとは逆に生理的に駄目な本というものも確かにある。後者は恐らく自分がその本の良さや真意を根本的に理解していない場合も多いのだろう。

今回、その生理的に大好きな本に出会うことができた。それは本当に嬉しくそして僕にとって本当に幸せなこと。後ろを振り返らず一気に本を読むことができた本は最近では宅間守 精神鑑定書――精神医療と刑事司法のはざまで以来だ。

その本は「統合失調症がやってきた

」作者は「ハウス加賀谷」と「松本キック」。10年ほど前にフジテレビの番組「ボキャブラ天国」で一世を風靡したコンビ「松本ハウス」のメンバーだ。

ボキャブラ天国に出演したいた時の”松本ハウス”は今でも面白い。最高に面白い。

統合失調症の闘病記

 本書はハウス加賀谷の闘病記だ。統合失調症を発症してから芸人になるまで、そして調子を崩して精神科閉鎖病棟へ入院。その後9年後に再び松本ハウスとして再出発するまでの自叙伝。非情に赤裸々に自分の生い立ちから病気の症状までが描かれている。非情に苦しい作業だったろう。

ハウス加賀谷は吐き気に襲われながら、実際に吐きながら本書を執筆したという。

この本に引き込まれる理由

統合失調症の闘病記で読みやすいものには例えばボクには世界がこう見えていた―統合失調症闘病記 (新潮文庫)

がある。症状の経過が非情に詳細に論理だって描かれているという点において素晴らしい本だ。しかし、この「統合失調症がやってきた

」は何故か読んでいる自分自身が非情に勇気づけらる

著者は人間が大好きでそして優しいのだろう。そんな雰囲気が本の至る所から伝わってくる。そして、このような病にかかったことに対する泣き言や恨み節のようなものが一切書かれていない。東京の御三家と呼ばれる超有名私立高校を中退し、グループホームで生活しながらも自分の人生を一生懸命に歩んでいる。

上から目線でも妙に自虐的でもなく本当に自分の人生を真剣に負けないで生きているんだろう。そんな所に僕は惹かれるのかもしれない。

僕にとってどんな自己啓発書よりも、勇気をもらえる。

素晴らしい相方と家族

ハウス加賀谷を取り巻く人達も暖かい。

芸人に復活し、精神科を共に受診した母親が本人にかけた言葉

あなたが充実した毎日を送っているだなんて、そんな親孝行なことはありません(p.205)

相方である松本キックが調子の悪い本人に向かってかけた言葉

自殺するのは芸人として面白くない(p.106)

そして加賀谷が調子を崩してからも季節ごとに連絡を取りながら10年知くも待ってくれていたエピソードなど。取り巻く人々も暖かい。

こういう本をきっかけに精神疾患への理解が一般の人々にも進むと素晴らしいな。

統合失調症がやってきた

via PressSync