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ひびのいろいろ

【書評】児童虐待を取り扱ったノンフィクション 「誕生日を知らない女の子 虐待 その後の子どもたち」

児童虐待を扱ったノンフィクションだ。児童虐待を受けた子どもで「家庭的養護」の措置を受け、ファミリーホームへ暮らすことになった子ども達。何人かの子ども達の話を中心として本書は構成されている。

ファミリーホームとはどのような制度かと言うと

なんらかな事情により家庭で子どもが育てられない場合、国や地方公共団体が家庭に代わって子どもを養育する責任がある。これが「社会的養護」で、里親などの「家庭養護」と、児童養護施設や乳児院などの「施設養護」、地域小規模児童擁護施設や小規模グループケアなどの「家庭的養護」の三種に分かれ、ファミリーホームは里親と同様に「家庭養護」を担っている。 (P116)

という括りの中の制度である。日本ファミリーホーム協議会という組織も存在し、そのホームページ上の説明によると以下のように記述されている。

平成21年度に創設された制度で、養育者の住居において行う点で里親と同様であり、児童5~6人の養育を行う点で、里親を大きくした里親型のグループホームです里親ファミリーホーム - 日本ファミリーホーム協議会

衝撃を受けざるを得ないそれぞれの子ども達の生活

 本書で登場する子ども達の生活は、衝撃を受けざるを得ない話ばかり。自分の誕生日を知らない子ども。両親とはどういうものかイメージできず、感情が全く欠如している子ども達。繰り返される性的虐待。将来に絶望し以下のように話す男児。

「ママ、大人になるってつらいことだろ。俺はもう死んだほうがいい。大人になっても、どうせ俺はバカだから。お仕事はできないし、今、死んだ方がいい。大人になるって、つらいことだろう」 (P137)

そんな子ども達に向き合い、ひたすら献身的に支える大人の姿も描かれている。それはただただ"あなたの存在には意味があるのだ"と伝えてゆく作業なのだと思う。

どれほど親に虐待を受けたとしても、そこに一片でも愛情があったのなら、それだけで存在の意味が立ち現れ、暗闇の世界にたった1人で彷徨う地獄から救われると。 (P276)

しかし、それはやはり並み大抵の仕事ではできるものではない。ファミリーホームの人々は24時間つきっきりで子ども達に接し、格闘している。その精神的疲労ははかりしれず、バーンアウトしてしまう人も多い。報われない努力もはかりしれず多いだろう。

その大変さは小規模児童養護施設を取り扱ったドキュメンタリー映画「隣る人」でも描かれていた。

ドキュメンタリー映画『隣る人』そして児童擁護施設 | FakePlasticTree

僕達は何ができるのか?

「 こういった子ども達に何かできないものか?」とどうしても考えてしまうのが人間というものだろう。

「働きながら社会を変える」 | FakePlasticTree

その答えが上記の本にある。そして作者が何をしたかが、ヒントになると思う。要はお金だ。一般の人々ができることはお金を出すこと。そして子ども達に教育を受けさせること。大学や専門的な教育を受けさせること。資格をとってもらうことそれが虐待の連鎖を止める一助にはなると思う。専門的なことは専門家に任すしかない。僕も上記の作者が運営している,児童養護施設向けの寄付プログラムに参加をしている。

おまけとして

この分野の突出した作品は個人的にはやっぱり松本大洋作のSunnyだ。言葉は必要なく読んでみれば分かる作品とはこのこと。 松本大洋の表現者としての突出したセンスにただ感服するばかり。一コマ一コマの間の中に様々な感情がうごめいていて、そして伝わる。上記の本を読む人には是非この漫画も読んで欲しいと個人的には思う。

【書評】こんなに切なくて暖かい漫画はめったにない。大傑作_「Sunny」第三巻。 | FakePlasticTree

Sunny 第1集 (IKKI COMIX)
松本 大洋
小学館 ( 2011-08-30 )
ISBN: 9784091885579